「AIサービスを使う前に読む利用規約」のタイトルバナー。ティールのノード線で、契約書・入力・出力・盾(補償)のモチーフ。

この記事の要点

  1. AI サービスの利用規約(ToS)は「サービス契約上の利用条件」で、モデルそのもののライセンスとは別物です。使う前に「入力が学習に使われるか / 商用に使ってよいか / 出力は誰のものか / 訴えられたとき誰が守るか」を確認するのが基本です。
  2. 対象読者: 副業 / 個人開発 / 企業の実務で AI サービス(ChatGPT・Claude・Gemini・GitHub Copilot など)を使う 日本在住 の方。前提知識は不要です。
  3. 得られる成果: 利用規約を読むための 6 つの軸 + 個人利用 / 商用公開 / 企業・API の 3 ケース別チェックリスト。
  4. 扱わないこと: 各社利用規約の逐条の最終解釈・最新版の可否判定 / 個別契約の交渉 / 訴訟戦略 / 特定プランの最終的な可否判定。これらは最新の公式規約 + 弁護士(商用契約・知財)/ 社内法務の領域です。先に 公開前の権利チェック を読むと前提が早いです。

Key Points (for international readers)

  1. How to read an AI service's Terms as a contract — distinct from the underlying model's license: training, commercial use, output ownership, and indemnity.
  2. The method travels: six axes (training opt-out / commercial use / output ownership / liability / indemnity / retention), read across three reader cases (personal / commercial / enterprise-API).
  3. Building for the US or EU? The English edition centers on US/EU practice — a companion piece, not a translation.
  4. Out of scope: clause-by-clause final readings, go/no-go calls on a specific plan, contract negotiation, and litigation strategy — those need the official terms plus a lawyer. Start with the pre-ship rights checklist for context.

執筆時点: 2026-05 / 対象法域: 日本国内法(海外は対照として補助的に参照)/ last_updated: 2026-06-05 更新履歴: 2026-05-26 初版公開 / 2026-06-05 内容更新(OpenAI 規約の到達性・API 保持の endpoint 別精緻化、GitHub Copilot の学習デフォルト 2026-04-24 変更を反映)

本記事は教材であり、法的助言ではない

AI サービスの利用規約(ToS)は、契約・著作権・個人情報保護・各社のポリシーが交差し、アカウント停止・損害賠償・契約解除を伴いうる領域です。本記事は 教育目的の一般的な整理 であり、特定のサービス・プラン・契約条項の解釈に対する法的助言ではなく、内容の正確性・完全性・最新性を保証しません。とりわけ各社の利用規約は予告なく改定されます。本記事の条項要約・施行日・有無判定は 2026 年 5 月時点で確認できた範囲 であり、実際の判断は必ず 最新の公式規約 + 弁護士(商用契約・知財)/ 社内法務 にご確認ください。扱わない範囲: 個別契約の交渉 / 訴訟戦略 / 特定プランの最終的な可否判定。本記事の情報は「現状有姿(AS IS)」で提供され、これを利用または信頼した結果生じたいかなる損害・損失についても、執筆者および YATA-NODE は(専門家へ相談したか否かを問わず)一切の責任を負いません。ご利用は自己責任でお願いします。

本シリーズの位置づけ: 「権利関係シリーズ」の 5 本目です。公開前の権利チェック で権利全体、OSS ライセンスの見極め で他者のコード、スクレイピングの法的境界 で他者のサイト・データの取得、外部素材のライセンス で他者が作った画像・音楽・フォントを扱いました。本記事はその先の「AI サービスを使うときの、サービス会社との約束ごと(利用規約)」編です。

用語ミニ解説(はじめての方へ):

  • 利用規約(ToS = Terms of Service): サービス会社と利用者のあいだの契約。何に使ってよいか、入力・出力をどう扱うか、トラブル時の責任分担などを定めます。
  • モデルライセンス: AI モデルの「重み(weights)」を自分で動かす・配布する・改変するときの許諾(Llama Community License など)。サービスの利用規約とは別のレイヤです(本記事 §1)。
  • 学習(training)/ オプトアウト: 入力したデータを AI の訓練に使うこと。プランによっては既定で使われ、設定で止める(オプトアウトする)操作が要ります。
  • 補償(indemnification)/ Copyright Shield: 出力が第三者の権利を侵害したと訴えられたとき、サービス会社が費用を負担して守る仕組み。法人・上位プラン限定が原則です。
  • AUP(Acceptable Use Policy): 利用規約のうち「禁止用途」を定めた部分。高リスク分野では人による確認(human-in-the-loop)や AI 利用の開示を求めることがあります。

「無料で使えるし、出力は自分のものだから自由」——AI サービスはそう感じやすいツールです。けれど利用規約を開くと、入力が学習に使われるか、商用に使ってよいか、訴えられたとき誰が守るかは、プランによって非対称に定められています。本記事は、AI サービスの利用規約を読むときの軸を整理し、最後に 個人利用 / 商用公開 / 企業・API の立場別チェックリストを置きます。主軸は 日本のユーザー・企業の実務、米国・EU は対照として触れます(米国・EU を主軸にした解説は英語版で扱います)。

まず大前提 — 利用規約(ToS)と「モデルのライセンス」は別物

AI サービスの規約を読むとき、最初に切り分けたいのが「サービスの利用規約(ToS)」と「モデルのライセンス」の違いです。両者はよく混同されますが、別の根拠に立ちます。

  • (A) モデルライセンスは、AI モデルの重み(weights)を 自分で動かす・配布する・改変する ときの許諾です(Llama Community License、Gemma Terms、Apache-2.0 など、モデル単位)。
  • (B) サービス ToSは、ChatGPT や Claude、Gemini API などを API・アプリ経由で呼ぶ ときの利用条件です(OpenAI Terms、Anthropic Commercial Terms など、サービス単位)。

「Llama が商用 OK だから ChatGPT の出力も自由」というのは、この 2 つを混同した誤りです。自分が「重みをホストする」のか「API を叩く」のかでレイヤが変わり、両方やるなら両方の確認が要ります。モデル/ソフトのライセンス分類そのものは AI モデルのライセンス で扱っており、本記事は (B) サービス ToS に絞ります。

そのうえで、本記事が扱う範囲をはっきりさせておきます。利用規約まわりの論点は「契約としてどうか」と「法律としてどうか」で分かれ、本記事は前者に絞ります。

本記事(利用規約編)で扱う本記事では扱わない(別の記事で)
契約として、入力が学習に使われるか・止められるか(ToS のオプトアウト)法律として、AI 学習が許されるか(著作権法 30 条の 4 など)・自分のサイトをクローラからどう守るか(AI 学習データとクローラ対応)
サービス利用として、商用に使ってよいかAI 生成物に著作権が成立するか・誰が著作者か(AI 生成物の著作権)
出力の所有・責任・補償が契約でどう定められているか個別契約の交渉・訴訟戦略

つまり「契約として学習に使われるか・止められるか」が本記事、「法律として学習が許されるか・自サイトをどう守るか」は AI 学習データとクローラ対応 で扱っています。混同しやすいので、最初に地図を置きました。

利用規約は「6 つの軸」で読む — 個別サービス比較は補助に回す

AI サービスの利用規約は分量が多いですが、実務で当たるべき論点は次の 6 つの軸 にほぼ収束します。この軸を主役に据え、個別サービスの細かい数字は「補助」に回すのがコツです。サービスごとの条項は改定が速く、記事や比較表に書いた瞬間から古くなりはじめるからです。

AI サービスの利用規約を読む 6 つの軸(入力の学習・商用可否・出力の所有・出力の責任・補償・データ保持/AUP)を、個人利用・商用公開・企業 API の 3 ケースで読み分けるマップ。
何を確認するか本記事の節
1 入力の学習入力が訓練データに使われるか / オプトアウト可否 / プラン別デフォルト学習とオプトアウト
2 商用利用業務・商用で使ってよいか / ToS とモデルライセンスの別商用利用の可否
3 出力の所有生成物の権利が誰に帰属するか / 一意性・第三者出力の留保出力の権利と責任
4 出力の責任正確性の免責(as is)/ 第三者権利侵害時の一次責任の所在出力の権利と責任
5 補償訴えられたとき各社が守るか(対象プラン・条件・除外事由)補償と Copyright Shield
6 データ保持・AUP保持期間・削除 / 禁止用途(高リスク領域の特則)データ保持と禁止用途

この 6 軸は、読者の立場——個人利用 / 商用公開 / 企業・API——によって「特に効く軸」が変わります(最後のチェックリストで立場別に整理します)。

個別サービスの「今の値」は、次の監視表のように 確認日・対象プラン・施行日・一次情報の有無 をセットで持つと、改定に追従しやすくなります(下表は 2026 年 5 月時点の確認結果です)。

サービス / 規約主な監視対象表示施行日確認状況(2026-05 時点)
Anthropic Commercial Terms学習除外 / 出力所有 / 補償 / 免責2025-06-17一次確認 ✅
Anthropic Usage Policy(AUP)禁止用途 / 高リスク用途の human-in-the-loop2025-09-15一次確認 ✅
Anthropic Consumer Terms学習(オプトアウト必須)/ 出力所有2025-10-08一次確認 ✅
OpenAI Terms of Use / API データ取扱い学習デフォルト / オプトアウト / retention / ZDRAPI 取扱いは確認可・契約系本文は要確認公式規約=一次。契約系条項は公式ページ + 専門解説で照合 ⚠️
Google Gemini API Terms無料=学習+人間レビュー / 有料=学習なし2026-03-23(更新 2026-04-28)一次確認 ✅
GitHub Copilot Product Specific Terms(+ Microsoft CCC)Business/Enterprise の IP 補償 / 重複検出フィルタ2026-03-05CCC は一次 ✅ / 規約本文は要確認 ⚠️

凡例: ✅ 一次情報の本文を確認 / ⚠️ 規約本文は公式ページ + 専門解説で照合(2026-05 時点。OpenAI 関連は方法論を末尾「出典」で補足)。OpenAI Service Terms はその後 2026-06-02 に更新されており、本表の値は参考にとどめ、判断時は必ず各社の公式ページで最新版を確認してください。この表は「どこを見張るか」のテンプレ であって、ここに書いた値そのものを根拠として使わないでください。

入力データの学習 — チャット系の個人プランは「ON 寄り」、API・法人は「(原則)OFF」

この章で特に効く立場: 個人利用(自分の入力が学習に使われるかが直結)。企業は法人プランで「契約として学習を止める」条項を確認します。

最初に押さえる非対称はこれです。チャット系の個人プラン(ChatGPT の Free/Go/Plus/Pro、Claude.ai の Free/Pro/Max、Gemini 無料)は、学習デフォルトが「ON 寄り」 で、明示的にオプトアウトしないと入力が学習に使われ得ます。一方、API・法人プランは学習デフォルトが「OFF」 です。同じ会社でも、入口(プラン)によって学習の既定が反対向きになり得ます。

サービス / プラン学習デフォルト止め方
Claude.ai 個人(Free/Pro/Max)学習に使われ得る(オプトアウト可)設定の "Help Improve Claude" を OFF
Anthropic 法人 / API(Team/Enterprise/API)学習しない(既定 OFF)不要(契約で除外)
ChatGPT 個人(Free/Go/Plus/Pro)学習に使われ得る(オプトアウト可)※Data Controls を OFF
OpenAI API / 法人学習しない(2023-03 以降の既定)不要(明示的に opt-in しない限り対象外)
Google Gemini API 無料学習に使われる + 人間レビューあり有料(課金有効化)に切替
Google Gemini API 有料学習しない不要
GitHub Copilot 個人(Free/Pro/Pro+)学習に使われ得る(2026-04-24 以降の既定)※設定「Allow GitHub to use my data for AI model training」を Disabled
GitHub Copilot 法人(Business/Enterprise)学習しない不要(契約で除外)

※ OpenAI 個人プランの学習デフォルトは、公式ページに加えて専門解説(二次情報)を併用して照合しています(最新の公式 Data Controls / 設定画面で確認してください)。GitHub Copilot 個人(Free/Pro/Pro+)は、2026-04-24 以降、入力・出力・コード断片などの interaction data が既定でモデル訓練に利用され得ます(設定「Allow GitHub to use my data for AI model training」を Disabled にして opt-out 可。Business/Enterprise は学習対象外)。なお Gemini API 無料は規約上「機密・個人情報を入力しないこと」とされており、機密データの投入自体が想定外です。また、EEA・スイス・英国の利用者は、無料版でも有料版のデータ条項が適用され学習・人間レビューの対象外です(Google ToS)。日本在住の利用者は原則として「学習 + 人間レビュー」の対象になります。

オプトアウトしても、止まらないものがある

オプトアウトは万能ではありません。Anthropic の Consumer Terms には明示の例外があります。

  • フィードバック評価(👍 / 👎) と 安全レビューでフラグされた入力 は、オプトアウト後も学習・安全研究に使われ得ます。
  • すでに開始済みの学習や、学習済みのモデル からは、後からオプトアウトしても取り戻せません(学習済みのデータは抜けない)。

もうひとつ、「学習させない」と「サーバに残さない(保持しない)」は別物 です。学習を OFF にしても、運用ログとして一定期間サーバに残ることがあります。保存そのものを止めたい場合は ZDR(Zero Data Retention) 契約が要ります(法人・申請ベース。OpenAI は適格エンドポイントで事前承認が必要、Anthropic は Commercial 組織キー + ZDR 承認)。

具体的なオプトアウトの操作手順や保持期間を短くする設定は、規約ではなく各サービスの設定画面の話になるため、本記事では深入りしません。本記事はあくまで「規約として何が定められているか」に絞ります。

商用利用の可否 — 「使える」の根拠を取り違えない

この章で特に効く立場: 商用公開(自分のプロダクトに組み込めるか)+ 企業(どの根拠で商用可と言えるかの説明責任)。

冒頭で触れたとおり、「商用に使えるか」には (A) モデルライセンス と (B) サービス ToS の 2 レイヤがあります。重みを自分でホストするなら (A)、API・アプリ経由なら (B) で、両方やるなら両方を確認します。ここでは (B) サービス ToS の商用可否を見ます(2026 年 5 月時点の確認結果)。

サービス商用利用条件・根拠
Anthropic Claude(Commercial / API)有効な Team/Enterprise サブスク or API キー + Commercial Terms 遵守。競合 AI モデルの構築目的の利用・モデルの蒸留(distillation)は禁止(AUP)
Anthropic Claude.ai(個人)出力の商用利用自体は可出力はユーザーに assign される。機密業務は Commercial 推奨
OpenAI ChatGPT / API可(一部例外あり)出力はユーザー所有。ただし 他ユーザーに似た出力が出ても保証はない(後述)。ChatGPT の Voice Output 等、サービス固有に非商用・譲渡対象外とされる出力もある ※規約本文は要確認
Google Gemini API(有料)「professional or business purposes 向け」と明記
Google Gemini API(無料)技術的には可だが機密投入禁止 + 学習・人間レビュー対象。EEA・スイス・英国の利用者に API Client を提供する場合は有料(課金有効化)Services が必須「機密・個人情報を入力しないこと」
GitHub Copilot(全プラン)可(コーディング支援)出力(suggestion)の利用はユーザー側。重複コードの検出フィルタは任意機能

特に事故が多いのは、根拠を取り違える次の 3 パターンです。

  • ❌ 「Llama は OSS だから、ChatGPT の出力も自由」 → 別レイヤです。オープンなモデルライセンスの話と、サービス ToS の話は無関係。
  • ❌ 「API は商用 OK だから、モデルの重みも再配布していい」 → API の利用許可と、重みの配布許可は別物です。
  • ❌ 「出力は自分のものだから、第三者の著作権も気にしなくていい」 → 出力の所有権と、第三者権利のクリアは別問題です(次章)。

「商用可」と書いてあっても、それは出発点にすぎません。AUP の禁止用途に触れていないか、出力が第三者の権利を侵害していないかは、別途確認が要ります。

出力の権利と責任 — 「あなたのもの」だが、留保がつく

この章で特に効く立場: 個人利用(生成物を成果物に使えるか)+ 商用公開・企業(納品物の権利と責任)。

AI の出力(生成物)が誰のものかは、主要各社で 「ユーザー側に帰属する」 という整理が概ね共通しています。ただし書き方は各社で異なり、OpenAI や Anthropic は ユーザーに譲渡(assign)、Google は 所有権を主張しない(won't claim ownership) という形を取ります(下表で書き分けます)。

サービス出力の所有権根拠(抜粋)
Anthropic Commercial顧客が所有"Customer owns its Outputs" + 権利があれば(if any)顧客に assign
Anthropic Consumerユーザーに assign"we assign to you all of our right, title, and interest—if any—in Outputs"
OpenAIユーザーが所有"you … own the Output. OpenAI assigns to you … its right, title, and interest, if any" ※規約本文は要確認
Google GeminiGoogle は所有権を主張しない"Google won't claim ownership over that content"
GitHub Copilotユーザー側が利用suggestion はユーザーのもの ※規約本文は要確認

ここで見落としやすいのが、どの社も 「当社に権利があれば(if any)それを渡す」 という条件付きだという点です。これは、AI 生成物に著作権が成立するかは法域ごとに扱いが異なり、人間の創作的関与が問われるためです。各社は「もし権利があるなら渡す」という慎重な書き方をしています。つまり「契約上はユーザー帰属」と「その生成物に著作権が成立する」は別問題で、後者は AI 生成物の著作権 で扱っています。

そしてもう一つの留保が 正確性の免責(as is) です。出力の正確性は全社が無保証で、これが責任分界の起点になります。Anthropic Commercial Terms は「サービスや出力が 正確・完全・誤りがないことを保証しない」と定め、OpenAI は「出力は一意とは限らず、他のユーザーが似た出力を受け取ることもある」とします(※規約本文は要確認)。

含意は重要です。ハルシネーション(もっともらしい誤情報)や誤った出力を、確認せず成果物に転記して損害が出ても、その結果について、規約上はまず利用者が責任を負う立て付けです。米国では、生成 AI が出力した実在しない判例を確認せずに裁判所へ提出した弁護士が制裁を受けた事例(2023 年)があり、これは「出力をそのまま信じた側の責任」の典型例です。

出力が第三者の著作権・商標などを侵害した場合も、利用規約の既定では 規約上の確認・遵守責任がまずユーザー側に置かれます(個人プランではユーザーが各社を守る側に立ちます。次章)。さらに、法律・医療・金融といった高リスク領域では、出力をそのまま利用者へ提示する前に 資格者によるレビュー(human-in-the-loop)と AI 利用の開示 が規約(AUP)で求められることがあります(後述)。

補償(indemnification)— 個人は「守る側」、法人・上位プランで初めて「守られる側」

この章で特に効く立場: 企業(契約プラン選定の核心)+ 個人利用(自分は守られない、という自覚)。

補償(indemnification)の向きの非対称。個人・Consumer プランではユーザーがサービス会社を守る側に立ち、法人・上位プランで初めてサービス会社がユーザーを守る側になることを矢印で示した図。

「補償(indemnification)」は、出力が第三者の権利を侵害したと訴えられたとき、サービス会社が費用を負担して守ってくれる仕組みです。ここで多くの人が誤解するのが「向き」です。利用規約の既定では、個人・Consumer プランのユーザーは、むしろサービス会社を守る(indemnify する)側に立ちます。 例えば Anthropic の Consumer Terms は「あなたは Anthropic を indemnify し、損害を被らせないことに同意する」と定めています。

各社が「ユーザーを守る側」に回るのは、次の補償が付くプランに限られます(2026 年 5 月時点)。

サービス対象プラン守る範囲主な除外事由
AnthropicCommercial(Team/Enterprise/API)許諾された使い方で生成した出力が第三者 IP を侵害したという申し立てを Anthropic が防御出力の改変 / Anthropic 非提供の技術との組合せ / 侵害を知りつつの使用 / 出力中の特許発明の実施
OpenAI Copyright Shield(条項上は Output indemnity)ChatGPT Enterprise / Edu / Healthcare(総称「Enterprise」)/ Business + API(旧 ChatGPT Team は Business へ改称。Free / Go / Plus / Pro は対象外)※ChatGPT Business の補償範囲・除外事由は Business Terms / 契約本文で要確認著作権侵害の申し立てに OpenAI が介入し費用を負担侵害を知り/知り得た場合 / citation・filtering・safety 機能の不使用 / 出力の改変・他社製品との組合せ / 入力の利用権限欠如 / 商標侵害は対象外
GitHub CopilotBusiness / Enterprise(Individual は対象外)無改変(unmodified)の suggestion に対する IP 補償(Microsoft の CCC に統合)改変済みの suggestion / 規約違反 / 高リスクとフラグされた用途
Google Gemini本記事の確認範囲では出力 IP 補償を ToS 本文で特定できず ❓

GitHub Copilot については、2026 年に重要な変更がありました。2026 年 4 月 3 日以降、IP 補償の必須条件として「重複検出フィルタを Block に設定すること」は求められなくなりました(Microsoft の Customer Copyright Commitment の必須緩和事項、2026 年 5 月 12 日確認)。フィルタ自体は、公開コードとの重複を抑える任意機能として残ります。

(Google についてのスコープ注: 上表の ❓ は ai.google.dev の Gemini API 直利用の規約に基づく判定です。Google Cloud / Vertex AI の契約では、有償・一般提供版について、責任ある AI 実務を条件とする別途の「生成出力(generated output)」IP 補償が提供されています。)

個人開発者が押さえるべき含意は 2 つです。

  • 個人プラン(ChatGPT Plus / Claude Pro / GitHub Copilot Individual)で作った成果物が著作権侵害で訴えられても、標準の利用規約では各社の補償対象外が原則です。守りが要るなら、法人・上位プランの契約が前提になります。
  • 補償があっても、除外事由が広い点に注意します。「出力を改変した」「他社製品と組み合わせた」「侵害を知りつつ使った」などに当たると、補償から外れます。補償付きプランだから安心、ではなく、除外事由に当たらない使い方をしているかまで見て初めて意味を持ちます。

補償条項の解釈はプラン契約の本文に依存し、各社で除外事由も異なります。実際に補償が効くかどうかは、契約本文 + 弁護士(商用契約・知財)の確認 が必須です。

データ保持と禁止用途 — 「削除しても消えない」場合と、高リスク用途の特則

この章で特に効く立場: 企業 + 個人利用(「削除しても消えない」可能性の理解)。

データ保持の 2 層。平常時の retention(API の不正監視ログは最大 30 日で削除)と、2025 年に起きた訴訟由来の保持命令で「削除したはずのデータが残った」例外保持(対象=個人・チームプラン、対象外=Enterprise/Edu)を対比した図。

平常時のデータ保持(retention)は、おおむね次のとおりです。

サービス / プラン保持の既定短縮手段
OpenAI API不正監視ログを最大 30 日保持し、その後削除(法的要請時を除く)ZDR 申請(適格エンドポイント、要事前承認)
Anthropic API30 日 / ZDR で 0ZDR 契約
Consumer(ChatGPT / Claude.ai)削除操作で消去(消去のタイミングは要確認)Temporary Chat / 履歴 OFF

※ 上表の「最大 30 日」は不正利用監視ログ(abuse monitoring)の保持期間です。一方、API に保存したオブジェクトのうち Assistants のオブジェクト・threads・ベクトルストア・アップロードファイルは、明示的に削除するまで(ファイルは expires_after まで)保持され、この 30 日(不正監視)ルールとは別系統です。ただし Responses API の応答オブジェクトや stored chat completions(store=true)は、既定で約 30 日の Application State 保持で expire します(無期限保持ではありません)。また ZDR(Zero Data Retention)は事前承認制で対象エンドポイントが限られ、すべての API 利用が 0 保持になるわけではありません(本記事は 2026-06 時点の公式ドキュメントに基づく)。

ところが、訴訟由来の法的保持命令で「削除したはずのデータが消えない」事態が、2025 年に実際に起きました。NYT v. OpenAI / Microsoft(事件番号 1:23-cv-11195、米ニューヨーク南部地区連邦地裁)の著作権訴訟で、2025 年 5 月 13 日に発令された保持命令が、ChatGPT の Free / Plus / Pro / Team、および ZDR なしの API の過去ログに及びました(Enterprise / Edu は対象外。Anthropic は無関係)。この無期限保持の義務は 2025 年 9 月 26 日に終了し(2025 年 10 月 9 日に正式な終了命令)、現在は標準の保持(削除後しばらくして削除)に戻っています。 ただし、終了前(2025 年 9 月 26 日まで)に保全されたログは(訴訟手続上)保持され続ける可能性があり、また EEA・スイス・英国発のユーザー削除リクエストのログは当初から保持の対象外でした。

実務上の含意はこうです。平常時は規約どおり削除されても、訴訟などの法的命令があれば「削除したはずのデータ」が一定期間残りうる——それが現実に起きた、ということです。機密を個人プランに入れる判断は、こうした例外がありうる前提で行うのが安全です。事前の備えとしては、対象外プラン(Enterprise / Edu)や ZDR の利用が原則です。なお訴訟の経過は流動的なので、最新の状況は裁判所記録で確認してください。

禁止用途(AUP)— 高リスク領域には特則がある

利用規約には「やってはいけないこと」を定めた AUP(Acceptable Use Policy) が含まれます。各社おおむね共通して、違法行為・児童性的虐待コンテンツ・武器やマルウェアの生成・重要インフラへの攻撃・なりすまし/偽情報・無断の個人追跡などを禁止し、最低利用年齢などの条件も定めます(細目は各社で異なるため要確認)。

特に見落とされやすいのが 高リスク領域の特則 です。Anthropic の Usage Policy(2025 年 9 月施行)は、法律・医療・保険・金融・雇用・住宅・学術試験・報道といった分野で個人に影響する助言・判断に使う場合、(1) その分野の資格者が提供前にレビューすること(human-in-the-loop)、(2) AI を使っている旨を相手に開示すること を求めています。加えて、入出力を使った無断のモデル学習(模倣・蒸留)も禁止です。なお各社の特則は程度差だけでなく性質も異なり、Google の Gemini API 規約はより踏み込んで、臨床現場での利用・医療アドバイスの提供・医療機器に関わる用途を原則禁止しています(「レビューすれば可」ではなく禁止)。

つまり「AI の出力を、確認なしに専門家の助言として利用者へ出す」サービスは、それだけで AUP 違反になり得ます。プロダクトに組み込むなら、自分のユースケースがこれらの禁止カテゴリ・年齢要件・高リスク特則に触れていないかを、各社の AUP / 規約で個別に確認してください。

ケース別チェックリスト — 立場ごとに見るべき点が違う

同じ 6 軸でも、立場によって「特に効く軸」が変わります。下のリストから自分の立場のブロックを、開発ノート / PR 説明欄 / 社内チェックシートに貼り付けて、投入前・公開前に確認してください。

【個人利用 — 投入前・公開前のセルフチェック】
□ 1 学習: 使っているプランの学習デフォルトを確認し、個人チャット系ならオプトアウトしたか?
□ 2 商用: 成果物を売るなら、根拠が「サービス ToS」か「モデルライセンス」か区別したか?
□ 3 出力所有: 出力がユーザー帰属でも「一意性はない・著作権の成立は別問題」と理解したか?
□ 4 責任: ハルシネーション・第三者権利侵害について、規約上の確認・遵守責任は自分側だと認識したか?
□ 5 補償: 個人プランは原則「守られない側」だと理解したか?
□ 6 保持・AUP: 機密を個人プランに入れていないか?禁止用途に触れていないか?

【商用公開 — プロダクトに組み込む・成果物を提供する】
□ 1 学習: 顧客データを渡す経路が、学習 OFF(API / 法人 / ZDR)になっているか?
□ 2 商用: 商用の根拠を、サービス ToS とモデルライセンスの両レイヤで説明できるか?
□ 3・4 出力・責任: 納品物の権利帰属と、第三者出力のリスクを、利用者への表示や契約に反映したか?
□ 5 補償: 補償が要るユースケースなら対象プランか?除外事由(改変・組合せ・故意)に当たらないか?
□ 6 AUP: 高リスク領域なら、human-in-the-loop と AI 利用の開示を運用に組み込んだか?

【企業・API — 導入判断・契約プラン選定】
□ 1 学習: 法人プランで学習デフォルト OFF を、契約条項で確認したか?
□ 2 商用: 全社利用の商用根拠を、両レイヤで整理したか?
□ 3 出力所有: 納品物の権利帰属・第三者出力リスクを、顧客契約に反映したか?
□ 4・5 補償: Copyright Shield / IP 補償が付くプランか?除外事由(改変 / 規約違反 / 高リスク用途)に該当しないか?
□ 6 保持: ZDR・訴訟由来の保持リスク(NYT 命令型)を評価したか?Enterprise / Edu 以外は法的保持の対象になりうる。

まとめ — 「使う前」に、立場の軸で規約を読む

AI サービスの利用規約は長く、改定も速いですが、見る軸は 6 つに収束します。入力の学習・商用可否・出力の所有・出力の責任・補償・データ保持と禁止用途——この軸さえ持っていれば、どのサービスでも「どこに地雷があるか」を当たれます。

  • 最も大きな非対称は、個人プランは「学習 ON 寄り・補償なし・保持命令の対象になりうる」、API・法人プランは「(原則)学習 OFF・補償あり・対象外プランを選べる」 という点です(ただし無料 API・直利用・一部プランには例外があり、補償は対象サービス・契約に限られます)。同じ会社でも、入口(プラン)によって扱いが大きく変わります(学習の既定・補償の有無・保持命令の対象など)。
  • 「出力は自分のもの」「商用 OK」と書いてあっても、それは出発点です。一意性の留保・正確性の免責・第三者侵害の一次責任 は残り、補償は法人・上位プラン限定で除外事由も広い。
  • そして、利用規約はあくまで「契約として」の話です。学習が法律として許されるか、自分のサイトをクローラからどう守るか は別の論点で、AI 学習データとクローラ対応 で扱っています。

利用規約は、利用者を縛るためだけのものではなく、サービス会社と利用者の約束ごとです。仕組みを知れば、過度に恐れる必要はありません。「使う前のひと手間」が、後からの大きなトラブルを防ぎます。

このシリーズでは、公開前の権利チェックOSS ライセンスの見極めスクレイピングの法的境界外部素材のライセンス も扱っています。あわせてどうぞ。

出典 / References

主要な根拠を一次情報中心にまとめます(末尾タグ(一次)= 公式規約・条文・行政文書・当事者発表、(補助)= 解説・報道・二次)。各社の利用規約は予告なく改定されるため、内容はすべて執筆時点(2026 年 5 月)の確認結果です。OpenAI / GitHub の一部の条項は、専門解説等の二次情報を併用して確認しており、該当箇所は出典で(補助)と明記しています。なお OpenAI Service Terms は 2026-06-02 に更新されています。本記事の OpenAI 関連の値は 2026-05 時点の照合 = 参考とし、判断時は最新の公式規約を確認してください。

Anthropic

OpenAI

Google

GitHub / Microsoft

なお、NYT v. OpenAI / Microsoft(事件番号 1:23-cv-11195、米ニューヨーク南部地区連邦地裁)の保持命令の時系列・対象範囲は流動的で、本記事は OpenAI の公式声明と二次情報に依拠しています。最新の状況は裁判所記録(PACER / CourtListener)で確認してください。

AI 補助の透明性: 本記事は、執筆者が実務で把握していた論点をもとに、調査・整理・要点化の補助として Claude(Anthropic)を用い、その上で執筆者が一次情報(各社の公式規約・行政文書・当事者発表)を確認して構成しました。各社の利用規約は予告なく改定されるため、施行日・条項・対象プランは執筆時点での確認結果です。OpenAI / GitHub の一部の条項は、専門解説等の二次情報を併用して確認しており、該当箇所はその旨を本文・出典に明記しています。

AI を使う前の「入力・商用利用・権利」を、自分の案件に記入して判定する自己判定キットを note で公開しています(有料):権利の境界(3)〜AI を"使う"前に。入力・商用利用・権利の自己判定キット〜

著者について

大手電機メーカーで制御工学から 20 年以上の電機・ソフトウェア開発、加えて個人開発 約 10 年の実務経験を持ちます。ハードとソフト、企業と個人の両面で「知らないとリスクになる」基礎から発信し、いずれは AI の実践的な活用法なども扱っていく予定です。詳しくは このブログについて